ケシ ／ アツミゲシ ／ ハカマオニゲシ （ ケシ科ケシ属 ）

基原植物名 ケ シ

生薬名 アヘン末 [ 局 ]

劇薬 用途 製造原料

ケシ 罌粟 ・ 芥子 ※１ と アツミゲシ 渥美罌粟 は、全草にアヘンを含むため、「 あへん法 」 により、所持、栽培、取引が厳しく規制されています。 アヘンなどを含有するケシ属について、日本の法律は、花びら１枚を持つことも許されない世界的にも厳しい内容といえます。 例外はアヘンアルカロイドを含んでいない種子です。 発芽できないように加熱処理したものを、食用の種子 ※２ として使用できます。 例えばアンパンの上についている粒々は、ケシ （ またはヒナゲシ ） の種子で、七味唐辛子などに入れられることもあります。 ケシ の草丈は１００～１６０cmほどになり、全体に毛は散生する程度で、ほとんど無毛です。 葉は互生し、葉身は長卵形～長楕円形で他のケシ属と比べると切れ込みが浅く、縁は波打ちます。 葉柄はなく、基部は茎を抱き、葉の色はやや白味を帯びています。 花弁はヒナゲシ（ケシ属）などと同様に、大きな外側２枚とやや小さめの内側２枚の計４枚からなり、色は白、赤、紫などがあります。 おしべは多数、めしべには花柱はなく、子房の上部 （ 柱頭盤 ） に放射状に柱頭がつきます。 ガクは２枚あって、早落性で開花の時に落ちます。 ケシの未熟な果実、いわゆるケシ坊主を傷つけると淡い褐色の乳液を出します。 この乳液を集めて、乾燥したものが生アヘンになり、ケシ坊主からの手作業によるアヘンの採取は、膨大な手間と時間を要します。 現在では、植物体全体を処理して、化学的にアルカロイド成分を抽出するという方法がとられています。 なお、花弁の白い品種 「 一貫種 ※３ 」 の名は、１反 （ 約１０アール ） で １貫 （ ３．７５kg ） のアヘンが採取できるとしての名前です。 ※１ 芥子 ： からしも同じ漢字を使うので、要注意。 ※２ 食用の種子 ： 画像の種子は、ケシかヒナゲシか確認していない。 ※３ 一貫種 ： 昭和初期に日本で作り出された品種。

ケシ 一貫種 Papaver somniferum 撮影地：高知県・牧野植物園

人類が長い間、利用してきたアヘンには、医薬品としての極めて有用な成分が含まれています。 モルヒネ morphine ※３、コデイン codeine、テバイン thebaine、 非麻薬性の ノスカピン noscaphin、パパベリン papaverine といった成分が、麻酔、鎮痛、鎮咳などに使用されています。 中毒になると精神的・肉体的に依存性が非常に強い麻薬でありながら、適切な利用をすれば、ケシは人類の病苦を和らげてくれた有益な植物です。 近年ではモルヒネの有効性が再認識されています。 ※３ モルヒネ ： 薬用植物から初めて分離抽出されたアルカロイドとして知られる。 副作用に、依存性、便秘、眠気、呼吸抑制などあるが、治療の疼痛抑制では、依存性はあまり生じないとされる。 日本での栽培は、種の保存と技術の継承として行われて、医療用に使用する原料はほぼ全量を輸入に頼っています。 諸外国の中には、鑑賞用であれば栽培を認める国もあるため、ボタン咲きのような園芸品種も創出されています。 日本では、園芸品種であっても規制の対象です。

いずれも Papaver somniferum で、規制の対象 撮影地：東京都薬用植物園

属名：Papaver 、ラテン語の ケシ に由来。 （ 幼児の ） 粥 papa ＋ 正統の、元々の verus、から 本当の粥 という意味。 昔、粥にケシの乳汁を混ぜて、子供を寝かしたことからという説。 乳液の見た目がお粥状であるという説などがある。 種小名：somniferum 、催眠性の という意味。 ソムヌスは、ローマ神話の眠りの神。 アツミゲシ 渥美罌粟 は、ケシ より小型で、草丈は５０～１００cmです。 葉は互生し、灰緑色、狭卵形で欠刻があり、縁は重鋸歯状、葉柄はなく基部は茎を抱きます。 ケシ と異なり、茎の上部には剛毛があり、早落性のガク片にも毛が生えています。 花期は４～５月、葉腋から花茎を伸ばし、先に赤や紫色の４弁花を単性します。 つぼみは花茎の先に下向きになってつき、開花前に直立して、上向きに咲きます。 花の直径は５、６cm、花弁の基部には、濃い暗紫色の大きな斑紋があります。 和名は、１９６０年代に渥美半島で繁殖していたのを発見されたことからの名です。 毎年、各地で相当数の発生があり、関係機関による抜き取りが行われています。 イベント会場で、数万本のアツミゲシが誤って栽培されていたこともありました（2008年）。 アヘンの含有量が少なく利用はされないようです。 ただ、繁殖力が強く、自然環境の面からも注意が必要と思われます。 種小名：setigerum 、剛毛のある という意味。

アツミゲシ Papaver setigerum 撮影地：東京都薬用植物園

植えてはいけない ケシ と アツミゲシ の特徴  （1） 毛が密生していない。  （2） 葉が茎を抱く。  （3） 葉の切れ込みが、深くない。  （4） 葉の色が白緑色である。 見つけたときは、自分で抜かずに 保健所や警察まで連絡をすること。

ハカマオニゲシ は、アルカロイド成分 テバイン thebaine を含むため 「 麻薬及び向精神薬取締法 」 によって規制されています。 規制される成分は全草にあって、特に根に多く含有するとされています。 ハカマオニゲシ は、草丈が７０～１００ｃｍになる多年草で、全体が白い剛毛に被われ、植えても違反にならないオニゲシ （ オリエンタルポピー ） と似ています。 根生葉は大きく、葉身は披針形で羽状にほぼ全裂し、裂片は線形で鋸歯があり、縁には剛毛がつきます。 花茎の葉は根生葉と比べて著しく小さく、５～６枚が互生してつきます。 ガク片の表面には伏した毛 （ 屈毛 ） がつき、開花とともに落ちます。 蕾の下部には苞葉が４～６枚つき、和名はこの苞葉を袴 （ はかま ） に見立ててつけられたものです。 花弁は４～６枚、特徴ある鮮やかな深紅色で、花弁基部には黒紫色の筋がまとまって作る斑紋があります。 花径は１０cmほど、雄しべは多数あり、雌しべに花柱はなく、先は柱頭盤となり、多数の柱頭が放射状につきます。 似ているオニゲシは、花弁の色が ハカマオニゲシ のような深紅色ではなく、ガクの毛は屈毛でなく開出毛といった違いがあります。 また、苞葉はないか、あっても４枚程度まで、茎葉も３枚程度とハカマオニゲシ より少ない傾向があります。 交雑もあることから、外見だけでは判断が難しいケースもあるといわれます。 種小名：bracteatus 、包葉のある という意味。 2012-2015-2020.07.-2025.06.01.Re 参考書籍等  「 生薬単 」、「 新訂生薬学 」、「 東京都不正大麻・けし撲滅運動 」パンフレット

ハカマオニゲシ Papaver bracteatum 撮影地：東京都薬用植物園

（ 左と中央 ） 苞のある花とケシ坊主、（ 右 ） 苞のない花で、ケシ坊主の下に苞はついていない。

オニゲシ Papaver orientale 撮影地：東京都薬用植物園

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