ムラサキ 紫 （ ムラサキ科ムラサキ属 ）

基原植物名 ムラサキ

生薬名 シコン （ 紫根 ） [ 局 ]

用途 漢方薬、製造原料

ムラサキ は、東アジアに分布する多年草で、国内の自生種は北海道から九州の山野で稀となり、絶滅危惧ⅠB類（EN）になっています。 主根は赤紫色で太く、茎は直立して、下部で枝を分けずに上部で２～３分岐します。 草丈は８０cmほどになり、全草に斜上する粗毛があります。 葉は互生し、葉身は被針形で長さ３～７cm、主脈と２～３の側脈が窪んで目立ち、ざらつきます。 縁は全縁、先は尖り、葉柄はなく、基部はくさび型です。 ６～８月頃、茎の上部にさそり形花序 （ 巻散花序 ） を出し、葉状の苞葉の脇に白い花をつけます。 花冠の先は普通５個の丸い裂片になって平らに開き、花径は６～８ｍｍ、雄しべ５個、雌しべ１個、ガク片は緑色の線形です。 花軸の先端は、うずを巻いている茎頂を広げながら茎を伸ばして咲き上がり、花期は２ケ月以上になることもあります。

ムラサキ 紫 Lithospermum murasaki ／ L．erythrorhizon 撮影・東京都、他

花期が長いため、上部では花が咲いていながら、下部では種子ができている状態になります。 種子は４分果になり、光沢がある灰白色で硬く、長さ２ｍｍほど、５個のガク片が囲みます。 この種子の硬いことが、ムラサキ属の学名の素になっています。 ムラサキ という植物名は、白い花が群れて咲くことから 「 群れ咲き 」 になり、訛って 「 群ら咲き 」 ＝ ムラサキ になったという説があります。 また色の名称のムラサキは、ムラサキ の根で染めた色がムラサキ色と呼ばれ、後に、紫という色の名称になったといわれます。 古い時代には、染料のムラサキ が貴重であったため、紫色は高貴な色とされていました。 聖徳太子の定めたとされる冠位十二階の最上位の 「 大徳・小徳 」 の冠も紫色であったと考えられています。 万葉集や古今和歌集にも好ましいものの例えとしてムラサキを詠んだ歌※ が多くあります。 時代が過ぎると、上流階級だけでなく、庶民でも紫色を利用できるようになってきます。 江戸時代には武蔵野のムラサキで染めたものが、「 江戸紫 」 の名前で流行しました。

ムラサキの根を１０月ごろに掘り出し、水洗いしないで乾燥したものを、生薬名・シコン （ 紫根 ） といいます。 薬効成分のシコニン （ 紫色の色素 ） は、抗炎症作用、創傷治癒促進効果があり、凍傷、やけど、切り傷などの軟膏に配合して用いられます。 華岡清洲が改良考案した外用薬・紫雲膏もそのひとつで、現在も、紫根のエキスを利用した内服薬や化粧品などがあります。 この絶滅危惧種も、栽培そのものは、特別難しくなく、移植を嫌うため、大きめの鉢を利用すれば、植木鉢による栽培もできます。 産業の場では、類似のセイヨウムラサキも利用されています。 ※ 歌 : 万葉集に載るムラサキの入る相聞歌 あかねさす紫野行き標野行き  野守は見ずや君が袖振る [ 額田王 ]  　( 天智天皇の ） ご領地の紫野で、そんなに手を振っては、誰かに見られますよ。  　・・・薬狩りの情景として詠まれた。 天皇の領地でムラサキなどの薬草を栽培していたとみられる。 紫草のにほへる妹を憎くあらば  人妻ゆゑにわれ恋ひめやも [ 大海人皇子 ]  　紫草のような （ 美しい ） あなたを厭わしいと思うならば人妻なのに恋などしようか。  　・・・ムラサキを好ましいものの例えとしている。 属名：Lithospermum 、石 lithos ＋ 種子 sperma、石の種。種子が硬いことから。 種小名：murasaki 、和名 ムラサキ より synonym種小名：erythrorhizon 、赤い erythros ＋ 根 rhiza ( rhizon )、赤い根 の意味 2003.06.-2020.04.-2025.02.20.Re 参考書籍  「 野草図鑑　はこべの巻 」、「 ワイド図鑑 里山・山地の身近な山野草 」、「 家庭で使える 薬用植物大事典 」、「 生薬単 」

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